川内原発、事故防災に強い懸念 避難計画「了承」も 2014/11/07 17:48
 九州電力川内原発(鹿児島県)の半径30キロ圏の自治体が策定する避難計画の実効性には疑問符が付いたままだ。再稼働を急ぐ安倍政権は、計画が実効的として「了承」したが、福島の事故で多くの死者を出した病院の入院患者の避難など課題は多く、住民から強い懸念の声が上がっている。

再稼働を急ぐ安倍政権は、計画が実効的として「了承」

福島の事故で多くの死者を出した病院の入院患者の避難など課題は多く、住民から強い懸念

 「原発の安全性が100パーセントでないなら、最低限、避難計画は100パーセントのものを作るべきだ」。同県日置市で10月29日に開かれた住民説明会では、計画の不備に対する住民の不満が噴出した。

住民説明会では、計画の不備に対する住民の不満が噴出

 福島の事故で被害が広域化した反省から、避難計画の策定など事前に対策をとる原子力防災の重点区域を、10キロ圏から30キロ圏に拡大。川内原発で対象となる自治体も、薩摩川内市など2市から9市町に増えた。新たに区域に入った自治体は原子力防災のノウハウが乏しい上、対象住民も大幅に増加。輸送手段の確保などが難航している。

避難計画の策定など事前に対策をとる原子力防災の重点区域を、10キロ圏から30キロ圏に拡大。
川内原発で対象となる自治体も、薩摩川内市など2市から9市町に増えた。
対象住民も大幅に増加。輸送手段の確保などが難航

 病院の入院患者や老人ホームなど福祉施設の入所者は、避難先でも医療設備やスタッフの対応が必要になる。しかし計画では、10キロ圏(17施設、約820人)の避難先は確保したものの、10キロ圏外(227施設、約9700人)については事前に確保できていない。

病院の入院患者や老人ホームなど福祉施設の入所者
10キロ圏(17施設、約820人)の避難先は確保
10キロ圏外(227施設、約9700人)については事前に確保できていない

 政府は当初、要援護者も30キロ圏を対象に避難先の事前確保を求めていたが、鹿児島県の伊藤祐一郎知事は10キロ圏外について「空想的なものは作れるが、機能しない」と当面策定しない方針を明言。政府も容認している。

鹿児島県の伊藤祐一郎知事
10キロ圏外について「空想的なものは作れるが、機能しない」と当面策定しない方針

政府も容認

 計画で指定した避難ルートや避難先が確実に使えるかも不透明だ。30キロ圏に入る日置市の計画では、海岸沿いの国道も避難ルートにしているが、担当者は「高潮で冠水するかもしれない」と計画が複合災害に対応していないことを認めている。

30キロ圏に入る日置市の計画では、海岸沿いの国道も避難ルートにしている
担当者
「高潮で冠水するかもしれない」と計画が複合災害に対応していないことを認めている

 このほか、高齢者らを乗せる避難バスの確保や、甲状腺被ばくを防ぐ安定ヨウ素剤を受け取っていない住民への配布方法、避難住民を受け入れる側の態勢整備など課題は山積している。

高齢者らを乗せる避難バスの確保
甲状腺被ばくを防ぐ安定ヨウ素剤を受け取っていない住民への配布方法
避難住民を受け入れる側の態勢整備

課題は山積





「地元同意」くすぶる不満=周辺自治体「国がルールを」−鹿児島 2014/11/07-15:44
 九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働に向け、地元の同意手続きが終わった。電力会社が再稼働の同意を求める自治体の範囲は法的な決まりがなく、伊藤祐一郎知事は一貫して「薩摩川内市と県で十分」と主張してきた。周辺自治体には不満がくすぶるほか、原発に対する住民の不安は根強く、今後も丁寧な説明と情報提供が必要になる。

伊藤祐一郎知事は一貫して「薩摩川内市と県で十分」と主張
周辺自治体には不満がくすぶるほか、原発に対する住民の不安は根強く、今後も丁寧な説明と情報提供が必要

丁寧な説明と情報提供したらズサンさがバレちゃうだろうな

 伊藤知事は同意の範囲について、「過去の経緯」を理由に「立地市の薩摩川内市と県」と繰り返してきた。一方、東京電力福島第1原発事故を踏まえて改定された原子力災害対策指針で、事前の避難対策が必要な範囲は原発の半径30キロ圏に拡大。県などが主催した説明会では、住民から「避難対策が義務付けられており、同意の範囲に入れるべきだ」「福島事故を見ても、30キロ圏は放射能の影響を受ける」などの意見が相次いだ。

伊藤知事
同意の範囲について、「過去の経緯」を理由に「立地市の薩摩川内市と県」と繰り返し

東京電力福島第1原発事故を踏まえて改定された原子力災害対策指針で、事前の避難対策が必要な範囲は原発の半径30キロ圏に拡大
住民
「避難対策が義務付けられており、同意の範囲に入れるべきだ」「福島事故を見ても、30キロ圏は放射能の影響を受ける」

 自治体からも声は上がった。いちき串木野市と日置市では9月、市議会が「地元」に組み込むよう求める意見書を可決。いちき串木野市の田畑誠一市長は「周辺自治体の意見も十分に聞いてほしい」と要望した。他の多くの首長もエネルギー政策は国の専管事項だとして、「国がルールを定めるべきだ」(森博幸鹿児島市長)と求めた。

いちき串木野市と日置市では9月、市議会が「地元」に組み込むよう求める意見書を可決

いちき串木野市の田畑誠一市長
「周辺自治体の意見も十分に聞いてほしい」

森博幸鹿児島市長
「国がルールを定めるべきだ」

 しかし国は「地域で事情は異なる」(宮沢洋一経済産業相)として、一律に決めない方針を再三表明。「地方に丸投げだ」との不満が地元から漏れる中、九電の瓜生道明社長は原発周辺の8市町長と意見交換するなど、知事の同意表明に向けて地ならしを進めた。首長らは「県の判断を見守る」(渋谷俊彦出水市長)と一任した。

国は「地域で事情は異なる」(宮沢洋一経済産業相)として、一律に決めない方針を再三表明

 結局、同意の範囲は広がらないまま、地元の手続きは完了。全国で最も早く再稼働する見通しの川内原発の同意手続きは先例として、後に続く原発の再稼働に影響を与える可能性がある。